「ビバ! コミックマーケット」


 皆さんはコミックマーケットというイベントをご存知だろうか? 年2回、8月と12月に逆三角形のモニュメントでお馴染みの東京ビッグサイトで行われる、大規模な同人誌即売会の事である。
 同人誌とは、個人で作る本の事。自分で原稿をかき、自分で印刷所に持っていき、自分でお金を払って本を作る。好き勝手な事を描いてよく、主にパロディ漫画、小説などの本が出回っている。そこにはプロ、アマ、関係無い。
 イベントは3日間に渡って行われ、一日目は一般人向け(?)、二日目は女性向け、そして三日目が男性向けになっている。3日間での集客数は何と50万人くらいになるのだという。それほど、世の中にはオタクが多いという事だ。
 僕は今まで6、7回程度行った事があるが、楽しい。実に楽しい。ムサいけど楽しい。同人誌は基本的にそこでしか買えない。(最近はお店で買えてしまいますが) 希望の本を手に入れた時の快感は、ジャニーズのコンサートに行った女の子達、ヨン様にあったおば様並みである。
 今回はこのコミックマーケット、略してコミケの事について色々語ってみようと思う。


 コミックマーケットの最初はイベント開始1ヶ月くらい前に発売されるカタログから始まる。どんなサークルが出てくるかをまずこの本でチェックする。気に入ったのがあればホームページを見たりして、どんな本を出すのか、またどんな感じの作風なのかをチェック。これがまた面白い。
 サークルとは簡単に言えば本を作る集団である。皆、思い思いの名前を名乗り、その名前で参加する。ちなみに僕は「BLUETALK劇場」である。名前なんて実際どうでもいいのだが、まあ、会社名みたいなものだと思っていただきたい。
 そして、当日。正直言って、最近のコミケは始まる前から戦争が勃発する。戦争とは何か? それは同人誌が高額で取り引きされ、その価値が飛躍的に上がった事にある。
 同人誌にはプロも数多く参加している。もしくは将来プロになる卵達もいる。そんな人達の同人誌は高額で取り引きされる。更に同人誌なので1万冊も無い。多くて3000冊程度である。その為、プレミアがつき、マニアはどうしても欲しいという欲望に掻き立てられる。その結果、壮絶な戦いが繰り広げられるのである。
 もっと細かく説明しよう。人気のあるサークル、つまり主にプロが作っている本を出すサークルは必ず壁際に売る場所を指定される。それは行列ができてもいいようなのだが、壁際にも更に2種類あり、スペシャルな行列ができてもいい所と、まあまあ行列ができてもいい場所の2種類である。
 このスペシャルな行列というのがまあ凄い凄い。銀座にオープンしたルイ・ヴィトンの限定品を買おうと並ぶ女性達の行列なんか目じゃない。あんなの子供の遊びです。赤子の手を捻るかの如く、ですよ、奥さん(誰?)。物凄い列です。私も生まれて初めて見た時はビビりました。
 10代後半から30代後半くらいまでの筋金入りのオタクがドドドッと大挙して並んでいるのである。それもその内の80%くらいは生涯童貞を貫きそうな人達である(やや誇張)。その行列がそこらじゅうにある。そしてそれを懸命に指示するスタッフの人達。
「はいはい! ○○サークルはこちらです。必ず3列に並んでください!」(スタッフ)
「すいません! ○○のサークルってどこですか?」(人)
「○○はあっちです。あっ、走らないでください! 走らないで!」(スタッフ)
「あっ、もしもし、僕です。今、○○のサークル並びました。そっちはどうですか?」(既に列に並んで待っている人)
 こんな怒号が飛び交うのである。異様ですよ、はっきり言って。えっ? 秋葉原でそういうのを見た事がある? あれよりももっと凄いですよ。例えるなら、メッカに向かうイスラム教徒ぐらい凄いのである。(ってこの例えは分かりにくいかもしれんな)
 で、その過酷な行列を征する為には、入念な準備が必要となる。まず、当日は始発電車に乗って、まだ太陽も出ていない内から並ぶのである。並ぶと言っても、コミケ自体は10時から開催されるので、正確に言うとビッグサイト前の広大な広場に並ぶわけである。
 そこには朝(というか夜更け)からコミケの係員がスタンバイしていて、始発がやってきて、ドドドッとオタクが溢れ出ると同時に、
「はいはい! こっちですよー!」
 という風に、列を誘導する。そうして、大行列が出来上がる。
 この始発が面白い。オタクというのは全国に散らばっているもので、僕の乗る駅にも既に「らしいヤツ」がいるわけです。
「ははぁん。こいつも行くんだな‥‥」
 というのが匂いで分かるわけです。この匂いというのが一般人は分かりにくいかと思うのだが、まあファッションセンス0、黒髪、色白、眼鏡、もしくはデブ。ここらへんを想像していただければよろしいかと思う。ってこれは偏見かな? でも、そういう人が多いのも確か。勿論、僕もその1人(笑)。
 で、そういう連中の後をついていくとビッグサイトに着くわけです。そして大体朝の6時半までには2万人くらいが並び、10時まで暇を弄ぶのである。
 僕が好きなのは、本を買う事もそうなのだが、こうして開催までゆっくりと待っている時間にある。目的を同じくした仲間達が数万人集まって、ワイワイワイワイ待っているのである。僕はこの時間が凄く好きなのだ。この間、客達はカタログを持って並ぶサークルを確認したり、仲間同士マニアックな話に華を咲かせる。僕はそんな彼らを遠くから見ているのが好きなのである。人間ウォッチングとでも言えばいいだろうか。
 オタクは面白い人が多い。本当に周りの目を気にしない連中が多いのである。
「うおっ! こいつはすげえ!」
 という輩ばっかなのである。僕が今まで見た中で最も凄かったのは、かなりの大柄な男で、頭に被った帽子には某マンガの猫のキャラの人形がついていて、携帯ストラップにも某ゲームのキャラがウジャウジャとついているのである。更に待っている間は携帯ゲームに勤しむ‥‥。もはや度を越えたオタクである。こういう人達を遠くから見ているのが最高に楽しいのである。
 ちなみに一言言っておくが、僕はそういう人達を馬鹿にするつもりは毛頭無い。僕だってオタクの端くれだし、何かに熱中するのはいい事だと思う。最近の流行にも見向きもせず(アニメやゲームの流行に敏感だが) ただひたすら我が道を行くその姿。孤高である。つまり、僕は尊敬の眼差しで彼らを見ているのである。(後半はやや誇張しております)
 まあ、そんなこんなで、朝の10時までにもっと人が集まってきて、最終的には10万人くらいの大行列が出来上がる。
 こうして、異様なムードの中、コミケはスタートするのである。


 スタートして、最初の1時間、最も激烈なのはやはり壁際のサークルである。開催と同時に、ドドドッと壁のサークルに並ぶ。走るな、と定員が言っているのに走るヤツばっかである。そして、行列に並び、30分(凄い所は数時間)くらい待ってエロ本を買うわけである。
 ここで知らない方の為に一言言っておくが、この同人誌、はっきり言って一般人にはまったく受けません。まずは値段。ページ数は30ページくらいしかないのに500円もするのである。値段だけで見るなら、普通の本屋に売っている単行本を買う方がはるかに有意義である。
 そして最も特筆すべきは内容である。はっきり言って、三日目のコミケで並ぶ本の90%はエロ本である。二日目でさえも、あまり例外ではない。ちなみに二日目は女性向けなので、ホ○本が多い。で、その内容がパロディなのである。まず漫画のエロ本に興味の無い方はアウトである。更に、最近のアニメやゲーム、漫画事情にも深く精通していないとその面白さは分からない。更に言うなら、そこには個人の趣味がモロに反映されている為、
「こんなシチュエーションかよ! ついていけねえ!」
 と言いたくなるような、凄まじいエロ本もあったりする。あえて内容は言わないが、とてもお子ちゃまや原作者には見せられません。同人誌である事をいい事に、本当に好き勝手やってるのである。
 そんなエロ本に群がる男達(しかも全然モテなさそうな)。これは普通の女性が見たら完全に引くだろう。アマゾンに生息しているアリの方がまだ可愛い。まあ、女性がいないわけではないのだが、3日目に関して言えば、野郎率は98%である。ある意味、必見です。
 でも、みんな楽しそうにやってるんだから、文句は言わないでほしい。趣味なんて千差万別なんだし、本人達が至福だと感じているなら、他人が何を言おうとも、聞く耳持っちゃくれない。売る方だって、幸せそうだしね。
 こうして、10万人のオタクでごった返す場内は、始まってすぐはこの人気サークルの本を手に入れる為に会場は戦場と化します。
 ここで匠の技をご紹介しよう。超人気サークル(主に美少女ゲームの原画をしている人のサークルや人気漫画家のサークル)は一回並んで買えるまでに1時間以上を費やす場合がある。そうなると、いくつも人気サークルを回りたい場合は、とても1人では対処しきれない。その為、匠達は徒党を組むのである。
「じゃあ、○○さんはこのサークル回ってください。僕はこっちのサークルを回りますから」
 と言った感じに作業を分担して回るのである。最近は携帯を使っているが、中にはインカム(飛行機の操縦者とかが耳につけてるアレの事ね)なんかを使って徹底的にやってる人達もいる。凄いパワーである。そのパワーを社会の為に使ったら、きっと日本の国債は1万円くらいになるだろう(笑)。そんなにまで欲しいのか? と思う。まあ、欲しいのだろう(笑)。
 僕はそんなに買いたい本があるわけではないのでそういう事はしないが、人気サークルの本を見ていると、
「あっ‥‥俺も結構欲しいかも」
 と思ったりしてしまう。オタクとは欲張りなものである。
 とにかく、最初はオタク達の猛攻により、場内は異様な殺気に包まれる。それを蚊帳の外から見ているのはかなり楽しいのだが、僕も欲しい本があるので、その殺気の中に突っ込むわけである。
 この戦いが収まるのは12時を過ぎた頃だろう。


 12時を過ぎると壁際サークルの中にはチラホラと完売の場所が出てくる。この頃から、壁際でないサークルにも人が集まってくる。壁でない所は行列ができるように作られていない。分かりやすく言えば、小学校の給食を食べる時に机を合わせてグループを作るでしょ? あれが大規模になったものを想像してくれればいいと思う。で、そんな作り方の為、人のごった煮具合は想像を絶する。以前一緒に行った友人は、
「人が多すぎて全然分からない」
 と言っていた。初心者らしい台詞である。匠になると、そんな事は気にならなくなる‥‥はずである。
 中のサークルは壁サークルに比べるとその数は10倍以上になる。壁のサークルというのはほんの一握りなのである。その為、中のサークルの場合はゆっくりと見て回って品定めをする事ができる。僕が一番好きなのは、そうやってゆっくりと人気の無い(失礼!) サークルを見る事なのである。
 この中に将来大物になる人がいるかもしれない。もしくは自分の趣味にぴったりの作品と巡り会う事もある。この出会いが楽しいのである。更に書いてる本人が店員として立っている事もあるので、プチサイン会みたいな雰囲気もあったりする。
 本来ならば、そういうのがコミケの本当の姿なのである。コミケのテーマというのは「好きな事をやる」であり、本当ならば壁サークルなどという行列をしなくては買えない本がある、という不自然なのである。これは年々マンガやゲームといったモノの文化的地位、もしくは価値観が上がった為で、一方で喜ばしい事ではあるが、一方でオタクに全てを食い尽くされてしまうのは悲しい事でもある。複雑な気持ちやね。


 では、他にもコミケの特徴を言っていこう。
 まずはコスプレである。コミケはオタクの集まりである。その為、コスプレをしている人もたくさんいる。可愛い女の子が流行のアニメの女の子キャラの格好をしている姿なんかは結構様になってていいのだが、男がセーラー○ーンの格好をしている事もたまにある。正直、ここ以外では絶対にやるなよ、と念を押したくなるのだが、まあ、それも本人の自由なんで実際に口にはしない。
 僕はコスプレをする趣味は無いし、やる人に対して文句も無い。コスプレは渋谷や新宿で浜崎あゆみのファッションを真似ている人と大差無いと考えている。変身願望の対象が違うだけ。浜崎あゆみさんは世界にただ1人。他の誰にも彼女にはなれないのだ。だったら、人が何に憧れようが人の自由ではいいではないか。
 コスプレの他にはトイレだろうか。3日目は男がほとんどだとさっき言いました。その為、コミケが始まる前の待ち時間、トイレは異様に混む。下手とすると1時間くらい並ぶ羽目になる。しかも「大きい方」がしたかったら、その苦痛は地獄の域だろう。
 僕は以前、この地獄を見た事があった。あれはもう二度と味わいたくない。皆さんも、もしもコミケに行くのであれば、トイレは前もって行っておきましょう。
 他には温度である。これは冬だとまあいいのだが、夏のコミケの暑苦しさはパンクバンドのライブよりも断然高い。汗だくのコデブの兄ちゃんと肌が合った時なんかにゃ、鳥肌もんである。美人のねーちゃんなんかほんのちょぴっっっっっとしかいない。夏のコミケに来る時はそこらへんは覚悟しておいた方がいいだろう。
 それでも楽しめれば、あなたも立派なコミケラー(?)である。


 コミケの終了時間は午後4時。嵐のようなコミケはそうしてひっそりと終わりを告げる。(ひっそりと言うわけではないが、最後の最後までいる人は少ない) 
が、帰る時にまた面白い光景が見られる。
 逆三角形の下は買い物を終えた人々で溢れる。友達で行った人達などがそこを集合場所にしているのである。その中にあの「匠」達がいるのである。
彼らは買い物を終え、買った本をみんなに分け与えるのである。そこにはなかなか手に入れる事のできない本がドサドサとある。羨ましいなぁ、と思う反面、
「大事な人生、何してんだ?」
 とも思う。これは完全に犯されてしまった人には分からない事だが、僕は結構思ったりする。
 同人本は商業本とは明らかに違う。例えば商業本の中には「一生の宝物にしよう」と思うような傑作マンガというものがある。まあ、それは人それぞれ違うと思うので具体的な例はあげないが、マンガが好きな人はそういう本の一冊や二冊あるだろう。
 んが、同人本でそういうものを期待すると肩透かしを食らう。エロ本が多いし、パロディがメインである。そこには手にした感動はあっても、読んだ時の感動というものは無いと僕は思っている。同人本がいけないと言っているわけではないが、あくまで同人。遊びの域は出ないと思うのである。
 そうやって冷静になってしまうと、同人本を買う意味というのは極端に無くなってしまう。マンガが好きでも同人本は嫌い、という人の多くはそういう理由だったりする。(僕の友人もそういう理由でコミケには行かない)
 そう思って徒党を組む連中を見ていると、どこかわびしい気持ちがしなくもないのだが、人生は人それぞれなので、好きにやってほしい。
 と、そんなこんなでコミケは終わるのである。


 とまあ、ツラツラと語ってきましたが、どうでしょうか? 行きたくなりました? えっ? 余計行きたくなくなった? まあまあ、そんな事言わずに一度くらい行って見ましょう。何だかんだ言って楽しいですよ。ライブみたいで。
 年に2回しかやらないですし。特に冬のコミケはそれをやらないと年を越せない、なんて言ってる方もいるみたいですし。オタク文化も、極めればまた楽しいんですよ。
                                                                        終わり


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